『お酒を飲んで、がんになる人、ならない人』の概要(後編)

お酒を飲んで、がんになる人、ならない人』の概要(前編)書籍

前の記事 ”『お酒を飲んで、がんになる人、ならない人』の概要(前編)” では、お酒とガンとの関係 について次のことを学びました。

◆アセトアルデヒドに強い発がん性がある。

◆唾液中のアセトアルデヒドは高濃度。

飲んでも赤くならないタイプよりも、飲むと赤くなるタイプの方が食道がんリスクが高い

昔はすぐ赤くなる体質だったのに、数年後に飲めるようになってきたタイプが最も危険。

◆エタノールパッチ法では遺伝子欠損を見分けることはできないので、確実に把握するには遺伝子型の検査をするしかない。

この記事では、書籍「お酒を飲んで、がんになる人、ならない人」の後半をご紹介していきますね。

著者は、アルコール依存症を専門とし臨床経験豊富な久里浜医療センターの横山顕先生です。

前回の記事では主に、「アルデヒド分解酵素」のお話がメインでしたが、この記事ではその一つ前の段階「アルコール分解酵素」のお話がメインとなります。

アルコール

アセトアルデヒド

酢酸

炭酸ガス&水

おさらいですが、お酒が分解されるまでの流れは上記の通りです。

このようにお酒の分解というのは「アルコールからアセトアルデヒド」「アセトアルデヒドから酢酸」の2段階に分かれているんですね。

そして、アセトアルデヒドは強力な発がん性を持っています。

この記事ではアルコール代謝の前半部分(赤字部分)のお話です。

頭を切り替えて見ていきましょう。

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❶翌日に酒臭い体質の人は、アルコール依存症と食道・頭頚部がんになりやすい

翌日に酒臭い体質の人は、アルコール依存症と食道・頭頚部がんになりやすい

ところが、ALDH2と同じくらい、アルコール依存症や酒飲みの運命に影響している別の酵素があるのです。それは、アルコールそのものを分解する酵素です。
今まではアセトアルデヒドを代謝する酵素の話をしてきました。今回は、アルコールを代謝するアルコール脱水素酵素1B(ADH1B)の話です。

『お酒を飲んで、がんになる人、ならない人』73ページより

アルコールを分解する酵素は次の2種類に分けられます。

①アルコール分解が速い酵素
②アルコール分解が遅い酵素

アルデヒド分解酵素と違って、アルコールの分解は「速い」か「遅い」かのどちらかです。

つまり、たくさん飲んだ翌日に酒臭いというのは、アルコールの分解が「遅い」ということです。

この、「アルコール分解が遅い人」というのは日本人にはたった5~7%しかいません

しかし、アルコール依存症では30%もの人がアルコール分解が「遅い」遺伝子を持っているのです。

意外だったのが、白人や黒人では90%以上の人がアルコール分解の「遅い」遺伝子を持っているということ。

アジア人以外は、飲んだ次の日に酒臭い人ばかりなんですね。

このように人種によって差があることから、日本特有の「お酒に寛容な文化」が出来上がったのかもしれませんね。

❷アルコール自体を分解するのが速い体質か遅い体質かは遺伝子を調べないと分からない

アルコール自体を分解するのが速い体質か遅い体質かは遺伝子を調べないと分からない

赤くなるALDH2(欠損型)、赤くならないALDH2(活性型)というのは、運命の遺伝子といっても、自分の飲酒体験でだいたいわかっています。多くの場合、遺伝子を調べなくてもわかります。しかし、遅い代謝のADH1Bか速い代謝のADH1Bかは、遺伝子を調べなければわかりません

『お酒を飲んで、がんになる人、ならない人』75ページより

アルコールの分解が速い遺伝子か遅い遺伝子かは、遺伝子を調べなければ分かりません。

その理由は、お酒をたくさん飲むとアルコールの分解が速くなるからです。

本書の中ではこのようになるメカニズムについても詳しく書かれています。

アルコール依存症の人はアルコールの分解が速くなっていますが、そのメカニズムにはアルコール分解酵素(=ADH1B)以外にも様々な要因が絡んでいるのです。

❸「赤くならない体質」+「アルコール代謝が遅い体質」が最もアルコール依存症になりやすい

赤くならない体質+②アルコール代謝が遅い体質が最もアルコール依存症になりやすい

一番赤くなりにくく、翌日も酒が残る。つまり、赤くならないALDH2(活性型)と遅い代謝のADH1Bという組み合わせ。これがアルコール依存症に一番なりやすい運命の遺伝子なのです

『お酒を飲んで、がんになる人、ならない人』75ページより

アセトアルデヒドは有害物質なので、体内に増えてくると不快な反応が現れ、飲酒のブレーキとなります。

ところが、アセトアルデヒドを分解できる「赤くならない活性型ALDH2」を持っている人は、どんどんアセトアルデヒドを分解できてしまいます。

この「赤くならない人」の割合は日本人の58%だといわれています。

一方で、アルコールの分解が遅いと、体内がずっとアルコールにさらされ続けることになってしまいます。

この「アルコール分解が遅い人」の割合は上記でもお話したとおり、日本人の5~7%だといわれています。

もちろん、この組み合わせの遺伝子を持った人が必ずしもアルコール依存症になるとは限りませんが、少なくともリスクは高いと言えます。

❹日本人の大多数は「赤くなる体質」+「アルコール代謝が速い体質」

日本人の大多数は①赤くなる体質+②アルコール代謝が速い体質

日本人の場合は、人口の半分弱が赤くなるALDH2(欠損型)ですから、アルコールに弱いということがあります。そしてもうひとつ、圧倒的に大多数の日本人が、アルコールがどんどん抜けて酒が残らない速い代謝のADH1Bをもっているからなのです。

『お酒を飲んで、がんになる人、ならない人』76ページより

本書を読んで最も驚いたのが、日本人の多くがアルコール依存症になりやすい体質(遺伝子)とは真逆の体質であるということです。

つまり、日本人においては、アルコール依存症になりやすい体質の人は圧倒的少数派ということです。

これを知ったことで、今まで感じてきた様々な違和感が1つの線につながったのです。

テレビコマーシャルでお酒の宣伝をバンバンしていること。

事あるごとにお酒の場が用意されていること。

お酒は一切悪くないという風潮が根付いていること。

飲んで問題を起こすと、飲んだ本人だけが責められること。

これらは、日本人という人種(遺伝子)がゆえに作り出された飲酒文化なのだと思います。

❺酒臭さは「がん」のもと

酒臭さは「がん」のもと

遅い代謝のADH1Bの人は、アルコールが唾液に残っています。そして、唾液の中で、常在細菌がアルコールを使ってアセトアルデヒドを作るので、遅い代謝のADH1Bの人の食道や咽頭は、長時間にわたって高濃度のアセトアルデヒドにさらされることになります。だから遅い代謝のADH1Bの人は、同じように飲んでもやはりアセトアルデヒドによる発がん性が強く出るのです。

『お酒を飲んで、がんになる人、ならない人』89ページより

このことも、衝撃の内容でした。

お酒を飲むと、全身拡散によって体内のアルコール濃度が一定に保たれるのです。

そしてそれは、唾液中にもアルコールが常に循環しているということを意味します。

アルコールを分解するのが遅い(=飲んだ次の日に酒臭い)というのはとてもリスクの高い体質なのです。

実際に私自身、翌朝に酒臭いことが日常茶飯事でしたので、もしかしたらアルコールを分解するのが遅い遺伝子の持ち主なのかもしれません。

❻20歳前から知っていれば未来のアルコール問題を防げる

20歳前から知っていれば未来のアルコール問題を防げる

先輩から「飲め、飲め」と勧められ、「オレの酒が飲めないのか」「仕事で必要だぞ」と、いろいろなことを言われても、8人に1人の確率でアルコール依存症になるという運命があるとわかっていたら断れます
赤くなる反応が弱く酒が残る「隠れ下戸」の人たちも、「オレって本当は酒に弱いんだ。発がんしやすいんだ」とわかれば、やはり考えます。

『お酒を飲んで、がんになる人、ならない人』98ページより

先にもお話ししましたが、日本人の特性として遺伝的にアルコール依存症になりやすい人は少数派です。

しかも日本人には「同調圧力」というものもあり、周りと同じ行動をするように教育されてきました。

このことから、本当はアルコール依存症になりやすい体質なのにも関わらず、それを知らずに飲み続けてしまう人が一定数いるのです。

さらに、日本人は元々アルコール依存症になりにくい人種なので、アルコール依存症やガンになりやすい体質であることを学ぶ機会は今の日本には残念ながらほぼありません

当然、学校教育だけでは不十分です。

家庭内での飲酒習慣や価値観は子供に伝わるからです。

なので、親から子、子から孫、というように世代を超えて辛抱強く伝え続けていく必要があるのです。

微力ながらこのブログが日本人のアルコールリテラシー向上の一助になればと思っています。

❼アルコール代謝が遅い人の方がビール腹になりやすい

アルコール代謝が遅い体質の人がビール腹になりやすい

日本人にビール腹の酒飲みがやや少なくて、ビール腹はつまみのせいだという説が広がっているのは、日本人ではビール腹になりにくい速い代謝のADH1Bをもった人が93~95%もいることも関係しています。

『お酒を飲んで、がんになる人、ならない人』120ページより

『ビール腹になるのは、つまみのせい』

このように考えている人は多いと思います。

ところが、ビール腹になるのは「アルコールの分解が遅い人」に多いことが分かっています。

つまみを食べないのにビール腹になってしまう人は、アルコールの分解が遅いタイプなのかもしれません。

それと同時に、飲んだ次の日に酒臭いことがないかどうかも思い出してみてくださいね。

まとめ:『お酒を飲んで、がんになる人、ならない人』の概要(後編)

最後に、本書後半の内容をまとめますね。

◆飲んだ翌日に酒臭い人(=アルコール分解が遅い人)は、アルコール依存症や食道・頭頚部がんになりやすい

アルコール依存症になりやすいのは、「アルコール分解が遅い」×「赤くなる(アルデヒド分解が遅い)」という組み合わせ

◆その「アルコール分解が速いか遅いか」は遺伝子を調べないとわからない

大半の日本人はアルコール依存症になりにくい体質

◆飲んだ翌日も酒臭い人は発がんリスクが高い

◆成人するまでにアルコールに関する正しい知識を持つことが重要

◆アルコール分解が遅い人はビール腹になりやすい

私は「お酒を飲んで、がんになる人、ならない人」を読んで、アルコールに対する自分の体質や遺伝子について考える良いきっかけになりました。

お酒をやめたいと思っている人は絶対に読むべきだと思いますし、「自分の体質を知りたい!」という人にも是非おすすめの一冊です。

また、禁酒に関する書籍は他にもたくさん出版されています。

知識は強力な味方になりますので、色々探してみることを是非おすすめしたいです。

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この書籍にも書かれている「遺伝子」について私が実際に検査を受けてみた結果については、こちらの記事をご覧ください。

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